魅惑への助走
 「何言ってんの。だめじゃない。そんなことじゃ」


 今さら司法試験をあきらめるなんて、とんでもない。


 「まだ半年以上あるのに。ここであきらめてどうするの。もっと頑張らなきゃ」


 私は慌てて叱咤激励した。


 「……そんな感じで、もう二度も失敗してきてるんだよ」


 私ははっとした。


 今までだって散々頑張ってきているはずなのだから、ここで安易に「頑張れ」と言うことは、励ましているつもりで実際はただの重荷に過ぎないのだろうか。


 「頑張っているんだけど、結果が伴わない。冷静に考えてもしかしたらこれが、俺の限界なのかもしれない」


 「……」


 高校時代、部活動に励んでいたクラスメートのことを思い出した。


 すごい頑張っていたのに全国大会はおろか、県大会出場にも届かない。


 日々の努力以外にも、今までの環境や持って生まれた才能など、努力だけではどうにもならないものがあるとつくづく感じた。


 「明美は……、司法試験に合格できなかったら、俺を嫌いになる?」
< 261 / 679 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop