魅惑への助走
 「まさか、そんなことあるわけ」


 ないじゃない。


 そう言い切れなかった。


 出会ってそして一線を越えて、付き合い始めてから一貫して満たされた日々を過ごしている。


 来年上杉くんは司法試験に合格し、弁護士の仕事が軌道に乗り始めた頃に……結婚しようと青写真を描いていた。


 そして私も、AVの仕事から足を洗おうと。


 ところが司法試験に合格できないまま進路変更となると、予定が大きく狂ってしまう。


 それによって上杉くんを嫌いになるなんて考えられないけれど、勝手に将来の弁護士夫人を夢見ていた私のプランは、根本から方向修正が必要となる。


 「怖いんだ。模擬試験の結果を突きつけられるたびに、自分の限界を見せ付けられているような気がして」


 上杉くんはすがるように私に抱きつく。


 怯えた子供をあやすように、私はそっと頭を撫でる。


 「明美。ずっとそばにいて」


 私の胸で懇願する。


 「私も。いつまでもそばにいさせて」


 そう一言答えた。
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