魅惑への助走
 ……。


 「明美。好きだよ」


 私をシーツの波からすくい上げ、惜しみない愛を注ぐ。


 それに応えるべく私は、両手を上杉くんの肩に添えて、


 「私も……好き」


 そのままキスをした。


 互いの体温が混ざり合い、何もかもが一つになって、真夜中の闇へと溶けていきそう……。


 「俺だけを見て」


 こうして抱かれていても、職業柄とでも言うべきか、つい「AVの台本としてはこのように文章化しよう」など、余計なことを考えてしまう私。


 上杉くんを受け入れることに必死で、それ以外の余裕なんてないはずなのに。


 私の集中を高めようと、いつもより強引に抱く。


 初めてこういう関係になった頃は、まるで怯えた子猫のように震え、私のなすがままだったのに。


 今は成熟した男の顔で、主導権を私から奪いつつある。


 嬉しいようでどこか寂しい。
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