魅惑への助走
***


 「ちょっと! こんな経験なし、どこにいるのよ!」


 新作撮影現場。


 肝心要のカラミの撮影なんだけど、片桐がまた相手役のりらさんに怒られている。


 りらさんは私と一歳しか違わないものの、AV女優としてはもうベテランの領域で、片桐すら頭の上がらない存在。


 未経験役の片桐の演技が不自然だと、さっきからずっと注意している。


 片桐も慣れない役柄で、四苦八苦しているようだ。


 いつもは俺様とかS彼役なので、日常の延長線上。


 しかしながら奥手で遠慮がちでウブな男など、現在過去未来、片桐の中には存在しなかったようで。


 「あんただって昔は、経験なしだったんでしょ!」


 「記憶になくて……」


 「じゃあ、怖い女に無理矢理襲われる自分を想像してみなさいよ」


 「は、はい。りら姐さんで十分怖いです……」


 りらさんは美人で背も高め、出るところは出ていてセクシーな雰囲気。


 気性も激しく、相手役男優をビシビシしごいている。


 片桐でも屈服せざるを得ないくらいに。
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