魅惑への助走
 こんなはずではなかったのだけど……という気持ちもなくはなかったものの。


 私よりAV業界に長く居る、売れっ子のりらさんの意見に間違いはないと思い、大先輩の意見を全面的に受け入れた。


 「全体的な進行に、変化は無しね。セリフが加筆修正されるだけで」


 私の隣で、監督として現場を仕切るのは榊原さん。


 最初は私の監督デビュー作とする案も取りざたされたけど、荷が重いとして固辞。


 今回もまた榊原さんに監督はお願いした。


 私はAVとして、その補佐。


 脚本は私の手によるもので、今回は片桐の単独作品ゆえいつもより長編。


 撮影時間も長くかかるため、気が抜けない。


 「さーて撮影再開だ。明美ちゃんもあやかりたくなるようなシーンを見せてあげる」


 片桐は危機とした表情で、控え室から戻ってきた。


 「頑張ってください」


 そうとだけ告げ、無視。


 そんな片桐も、りらさんの前に立つと、おちゃらけた表情も一変。


 緊張の色が濃くなる。
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