魅惑への助走
 「それではそろそろ、おいとまさせていただきますか」


 宴もたけなわの頃、DWSのお偉いさんたちご一行が、先立って宴会場を後にした。


 彼らは多忙なので、今日も打ち上げには顔を出したけれど、これから別の接待があるようだ。


 「本日はご足労いただき、まことにありがとうございました」


 松平社長が深々と礼をする。


 そしてビルの玄関先まで見送り、タクシーに乗り込むまで見届けなくてはならないので、私と榊原さんも付いていった。


 まずエレベーターのボタンを押して、この階まで呼び寄せて。


 「開」ボタンを押し続けて、全員が乗り込んだのを確かめてからドアを閉じ、一階まで移動。


 外に出て、あとはタクシーに乗り込むだけだ。


 「いえいえそんな」


 「まあこれはご祝儀として」


 お偉いさんは何万円かを包んで、今日の打ち上げの足しにと松平社長に渡してくれたようだ。


 遠慮はしたものの、結局は押し付けられる形で、社長はお金を受け取る。


 お偉いさんたちが乗ったタクシーが夜の闇に完全に消えたのを確かめて、我々はビルへと戻った。
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