魅惑への助走
 「片……!」


 抵抗する間もなく、強い力でソファーに押さえつけられる。


 「もう逃がさないよ。第一今回は、誘ってきたのは明美ちゃんのほうだよ」


 「嘘です!」


 「嘘なんかじゃないよ。さっき俺の腕の中で、もう好きにして、って言ったくせに」


 「そんなこと、言ったはずありません」


 「明美ちゃんがいけないんだよ。俺を誘惑してくるから」


 片桐は有無を言わさず、私に体を寄せてくる。


 「今日こそ食べちゃうって決めたんだ」


 「誰か……、」


 助けを呼ぼうにも、なぜか声が出ない。


 たとえ大声を出しても、宴会に興じている人たちの耳には届かないかもしれない。


 「……前、お祭りで一緒にいた男。彼氏?」


 急に真面目な表情で、片桐は私に尋ねてきた。


 「え……」


 至近距離で片桐に目を覗き込まれ、たまらず目を逸らす。


 「ふーん。明美ちゃんにも彼氏いたんだ。彼氏ともこういうことするのかな」


 挑発的にこう述べてから、片桐は無理矢理。


 私に唇を重ねてきた。
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