魅惑への助走
 「あ……。あら?」


 恐る恐る振り向き、予想通りのりらさんに片桐は苦笑い。


 「ずいぶん長いトイレかと思ったら。こんなとこで何してんの」


 ソファーに押し倒した私の上に覆いかぶさる、片桐の背中を。


 ピンヒールで刺したまま、りらさんは問いつめた。


 「え。いや、その……」


 片桐はトイレに行くと言ったままりらさんの元を逃れ、それっきりになっていたようだ。


 「で?」


 「あ……。下着は黒ですね。相変わらずセクシーっす」


 ミニスカートゆえ、りらさんの下着の色まで丸見えだった。


 「うぎゃあ」


 その瞬間、ピンヒールの踵に加わる力が強まった。


 「撮影だけじゃ、物足りなかったようだね」


 「いえ、そんなわけでは」


 りらさんは片桐を、私から引っ張りはがした。


 片桐の重量感から解放され、ようやく自由になれた。


 すると、


 「そんなに物足りないなら、私とどう?」


 「へ?」


 「私とは嫌なわけ?」


 「い、いえ。そういう意味では」


 「だったら撮影中みたいに、やってごらんなさいよ」


 「たっ、助けてください」


 りらさんに頭が上がらない片桐は、逃れようとするが……。
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