魅惑への助走
 「撮影中より、たっぷりサービスしてあげるから。それでも嫌?」


 「わわっ。ちょ、ちょっと待ってください!」


 りらさんに脱がされそうになり、片桐は慌てふためいている。


 直前まで絶体絶命の危機だったにもかかわらず、目の前で撮影シーンが再現されているようで、私はつい愉快で笑ってしまいそうになった。


 そのあたりで、ふっと記憶が飛んだ。


 「……?」


 次に意識を手にした時。


 一瞬自分がここで何をしているのか、分からなくなった。


 そうだ打ち上げの最中に、片桐にどこかに連れ込まれて、襲われそうになって。


 危ないところでりらさんが現れて、それから?


 「……ここは?」


 周囲をきょろきょろ見回した。


 「宴会場の隣の空き部屋だけど?」


 すぐ横で声がした。


 私はソファーに横たわっており、ゆっくり身を起こすと、そばの椅子にはりらさんが足を組んで座っていた。


 鼻をつく煙草の匂い。


 りらさんは優雅に煙草の煙を漂わせていた。
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