魅惑への助走
 「あんた、煙草は?」


 りらさんは煙草を私に分けてくれようとしたけれど、


 「やめたので、今はもう……」


 私がそっと首を振ったのを見て、


 「そうなんだ」


 りらさんは再び煙を大きく吸い込む。


 「あの、私」


 記憶が一瞬飛んだ前後に何があったのか、尋ねようとした時だった。


 りらさんの足元に、片桐が倒れているのが見えた。


 「か、片桐さん? これは……」


 まさか片桐を黙らせるために、りらさんが……?


 「ちょっと! 私が殺ったとでも思ってないでしょうね」


 りらさんは笑い出した。


 「気を失ってるだけだよ。私があまりに良すぎて、我慢できなかったみたい」


 「りらさん!?」


 結果的に、私を魔の手から救うために。


 りらさんが身代わりとなる形で、片桐に体を差し出したのだろうか?


 「誤解しないでよ。私こいつとやってないからね」


 私が考えていたことが伝わったようで、りらさんは否定してきた。


 「え?」


 そういわれても、仰向けに倒れている片桐の表情は、非常に気持ち良さそうで。


 寝顔は時折、ニヤニヤしていたりもする。
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