魅惑への助走
***


 最寄り駅から二つ手前の駅で下車し、改札をくぐって駅から出た。


 金曜の夜、繁華街は不夜城のごとく賑わっているものの、この辺りはすでに商店街は店じまいしていることもあり。


 夜の静けさに包まれている。


 駅から出て、駅前商店街を通り抜ける。


 閉店後ゆえ、すでにシャッターが下りていて物寂しい。


 この辺りは何度か来たことがあり、道を覚えるのが得意な私は、迷うことなく目的地へ向かっている。


 もう少しで、上杉くんのアパート。


 最近撮影やロケで忙しくて、なかなか会えなかったので、衝動的に会いたくなった。


 今日も打ち上げで遅くなると伝えてあったため、会う約束はしていない。


 一応さっき電話はかけたのだけど、繋がらなかった。


 「今から会いたい「とメールしても返事はなく、「会いに行ってもいい?」「これから向かうから」と一方的に立て続けに送りつけた。


 依然として返事はないまま。


 かつてなら「情熱的」とみなされたかもしれない、でも今の時代これじゃまるでストーカー?


 そろそろ午後11時で、寝ている可能性もあるけれど、着いてからチャイムを鳴らせば起きてくれるだろうと安易に考えていた。
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