魅惑への助走
 商店街が続くメインストリートを曲がり、裏通りをちょっと進めばもう、上杉くんのアパート。


 中には一度も入ったことがなく、物を取りに帰った上杉くんを玄関先で待っていたくらい。


 四畳半一室の1LDK、狭くて壁も薄いからと、会うのはいつも私のマンション。


 辿り着いた上杉くんの住むアパートは、古びた木造二階建てなのだけど、夜のや身に包まれてみればそんなにボロくは見えない。


 私がSWEET LOVEに入社するまで住んでいたのも、このような古くて小さなアパートだったため、むしろ懐かしくも感じられる。


 上杉くんの部屋は、一階の中央部。


 表札らしいものはなく、ポストに小さくUesugiと書かれたステッカーが貼られているのみ。


 「ここだ」


 玄関のドアの脇にある窓には、カーテンが掛かっているものの、隙間から中を覗くと真っ暗。


 寝ているか不在かどちらか。


 チャイムを鳴らしてみる。


 ピンポーンと音が響くものの、反応がない。


 耳を澄ましても、部屋の中に人の気配はないみたい。
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