魅惑への助走
 何回かチャイムを鳴らしてみても、反応はないままだったので。


 再度電話をかけてみることにした。


 これまた繋がらない。


 部屋の中から着信音も聞こえてこない。


 ということは、外出中?


 こんな時間に?


 考えてみれば、私と会う予定のない夜、上杉くんは別の友達と会ったり飲みに行ってる可能性はある。


 私だけが上杉くんの知り合いってわけじゃないんだから。


 「……」


 だけどそんなことをふと考えただけで、妙に寂しさが込み上げてくる。


 上杉くんが持つ、私の知らない世界に嫉妬してしまう。


 私の友人に上杉くんを紹介するって機会が今までなかった(職場の人には絶対に会わせられない)し、私もまた上杉くんの友人関係とは接触を持っていない。


 唯一あのお祭りの際、大学のOB軍団に遭遇したくらいで。


 二人きりの世界で私は満足していたのだけど、上杉くんには上杉くんだけの世界があって、私にはほとんど未知の存在。
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