魅惑への助走
 ……。


 「ごめんごめん。遅くなって」


 上杉くんが勤務を終えて私の所に走ってきたのは、午前零時を15分ほど回ってからのことだった。


 「引き継ぎ作業が時間かかっちゃって」


 金曜日の夜ゆえか、午前零時くらいになってもお客さんはやって来る。


 この界隈に夜中まで営業しているスーパーはないので、客足は絶えない。


 ちょうど午前零時直前に、宅飲みでもするのか、若者集団がアルコール類を大量に買い込み、レジから離れられなくなったようだ。


 「大丈夫。携帯いじっていたから」


 携帯電話用のウェブサイトで、ニュースなどをチェックしていた。


 さっきまでのアパートの前での絶望的な一人の時間に比べれば、今コンビニの前で上杉くんを待っていた20分程度は、さほど苦には感じられなかった。


 「これからどうする? 明美のところに行こうにも、もう最終電車が」


 不夜城のような首都の片隅とはいえ、上杉くんの最寄り駅から最終電車が出てしまうのは案外早く。


 今からだとマラソン選手のようなスピードで駅まで走らないと、最終電車には乗れないだろう。
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