魅惑への助走
 「同じビルにこんな面白い子がいるなんて、今まで全然知らなかったよ」


 それから少しの間、葛城さんと話をした。


 「で、明美ちゃんって、SWEET LOVEで働いてるんだ。SWEET LOVEってあれだよね。……明美ちゃんもエッチなビデオ製作に携わっているの?」


 「まあ、それほどでもありませんが……。そんな感じです」


 同じビル内にオフィスがある者同士であるため、さすがに職場の業種を隠し通せない。


 あ、そういえば。


 「葛城さんは、どこの企業にお勤めなんですか?」


 ビールをグラスに注ぎながら質問した。


 今思うと、葛城さんがどこの会社に勤めているのか聞き漏らしていた。


 「あれ? 知らなかったっけ?」


 「はい……。ボウリング中は投球に夢中で、会社名の書かれた名札も見落としていたんですよ」


 「そっかそっか。じゃ当ててみて。ヒント。……俺はね、今日の参加者の中で、毎日一番長い時間働いてる」


 「一番長い時間……?」


 全く見当が付かない。
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