魅惑への助走
 次に武石さんは、私にこんなことを言った。


 「だけどもったいないなあ。明美ちゃん、本気でAV女優なるつもりない? 淑女の中に秘めた娼婦性、なんてコンセプトで」


 「えっ」


 本当は報酬に目がくらんで、AV女優に興味を持ったはずなのに。


 いざこうやって勧められてみると、やはり躊躇してしまう。


 いくら目の前で爽やかな笑顔を浮かべる武石さんが、相手役になってくれるのだとしても。


 このスタジオで裸になり、全てをさらけ出す勇気は……到底私には存在していなかった。


 「駄目ですよ武石さん。この子は私の後継者にする予定なんですから」


 いつの間にか私は榊原先輩の弟子を通り越して、後継者ということになっている。


 「それでこれから撮影現場を見学ですか。しっかり目に焼き付けて。あ、でもそんなことしたら、やっぱりAV女優になってみたいって気分になってるかもしれませんよ」


 武石さんは笑いながら、撮影の中心となるベッドのほうへと歩いていった。


 大きさやスプリングの硬さをチェックしている。
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