魅惑への助走
 その後椿ちゃんという、相手役のAV女優が到着。


 背格好と年の頃は確かに私と似通っているけれど、そんなに似ているかな?


 今日の私は、もしかしたらAV女優に……だなんて皮算用していたので。


 就職活動用のスーツの中でも、体のラインがはっきりしていて胸元の広い、セクシーなスーツを着用していた。


 接待に体が必要となりそうな際は、いつもこれを着ていた。


 そしてメイクも通常よりばっちり。


 普段の私とはかなり違う、着飾った自分であるとはいえ、AV女優の椿ちゃんとはあまり似ているような気はしなかった。


 そこに監督(ディレクター)が入ってきた。


 年の頃は30前後と思われる、綺麗な女性だった。


 「松平(まつだいら)監督。お待ちしてました」


 現場の人たちが、一斉に挨拶する。


 この美人監督は、松平という名前らしい。


 挨拶を終え、セットなどを確認してから現場を見渡し……。


 「あら? あなたは?」


 壁際に立ち、その場の成り行きを見守っていた私に気が付いた。
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