魅惑への助走
 「前菜は英語でアペタイザーだけど、この由来は食欲って意味のapetiteだね。前菜は食欲を誘発するものだから」


 葛城さんが予約の段階で、コース料理を頼んでいたようで、まず前菜から運ばれてきた。


 それからサラダ、パスタ、ピッツア、メインディッシュ……と。


 「イタリア語ではantipasto。食事の前にって意味だから、前菜そのものだね」


 メニュー表を見てみると、確かにそう書かれている。


 コースは120分で、ワインなどドリンクおかわり自由。


 さっさと飲み食いを済ませ、忘れ物を回収し、退散したかったのだけど……。


 「あれ? 葛城さんはワインは飲まないんですか?」


 ノンアルコールビールを口にする葛城さんに尋ねた。


 「今日は車だから、残念ながらワインは無理なんだ」


 「せっかくこんなワインが美味しいお店に来たのに。置いていかれないんですか? この辺駐車場料金高いけど、夜間になったら安くなりますよ。それか運転代行を呼ぶとか」


 どうしても庶民的な発想をしてしまう私。


 「いや、今日は車に乗って帰る必要があるから、仕方ないんだ」


 仕事に車を使うのかなと思った。
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