魅惑への助走
 ……。


 「大丈夫でしょうか葛城様。お連れ様は」


 「いや、こちらの不手際だし。ちょうど着替え持ってて助かった。今だけはドレスコード、見逃してくれよ」


 「はい、それはもちろん」


 トイレで着替えてレジの前に戻ると、葛城さんが店員さんと話をしていた。


 顔見知りのようだ。


 私はここに来る前にスーツに着替えていたので、再び仕事中に来ていたものに着替えて難を逃れる。


 ただここのような高級店はドレスコード、服装チェックみたいなものがあるので、仕事中に着用していたようなラフな格好だと入店禁止を食らってしまう可能性がある。


 だけど今は緊急事態ということで、Tシャツにジーンズでも見逃してもらえた。


 葛城さんには常連の強みもあったし。


 そして会計を済ませて店を出た。


 葛城さんがクレジットカードで支払いをしていたけれど、私の使うようなカードとは異なり、限度額の高い、金持ちが使うようなカードと推定される。


 「スーツ借りてくよ。クリーニングしておくから」


 私が手にしていた、紙袋に入ったスーツを取り上げられた。


 「いえ、結構です。私がうっかりしていたのが原因ですから」


 取り返そうとしたけれど、


 「この辺りに馴染みのクリーニング店があるんだ」


 強引に持ち去られた。
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