魅惑への助走
***


 「彼氏に嘘ついて。悪い子だね」


 ホテルの窓の外には、都心の夜景が一面に広がっている。


 辺りには遮るような建物など存在しないくらいの高層階。


 窓辺に立ち、人目を気にせず唇を重ねる。


 「そっちから誘ってきたくせに……」


 誘われるがままにあやまちを重ねてしまう自分が悔しくて、拒んでみようと試みるも……無駄な抵抗。


 気がつけば主導権は全て奪われ、求められるがままに体を開いている……。


 「彼氏にはそれしか奉仕しないの?」


 ベッドの上でじらされる。


 「もう、名前出さないでください」


 彼氏云々言われると、上杉くんの笑顔がちらついて集中できない。


 罪悪感もちらつく。


 「だったら彼氏の記憶が消えてしまうくらいに、もっと淫らに狂えばいいのに」


 「そんなこと……」


 無理、と告げようとしている自分の裏で。


 もう一人の自分が、言われるがまま淫らに狂ってしまいたいと欲し、さらなる罪に溺れていく。
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