魅惑への助走
 「一刻も早く、明美はあいつと別れるべきだと思っている」


 葛城さんは体を重ね終わると、シーツをまといながらいつもそう主張するのだけど、


 「……少し時間をください」


 それが毎回くり返される私の答え。


 決定的な理由もなく、そう単純には断ち切れない。


 しかも今のままでは、原因は私の浮気……!


 「実は、いい方法を思いついたんだ」


 「いい方法?」


 「そう。明美があいつと後腐れなく別れられる、最良の手段」


 「それって……?」


 「別れさせ屋、って知ってる?」


 「?」


 「プロの業者なんだけど。あいつに別れさせ屋の女を差し向けて、誘惑させる。そしてあいつがその女に夢中になったタイミングを見計らって、明美が浮気の事実を掴んだことにする。そうなれば先に浮気したのはあいつのほうになるし、明美もそれを口実に綺麗さっぱり別れられる」


 「そんな……!」


 私は驚いて、ベッドから状態を起こした。


 「それくらい手荒な手段を取らないと、そう簡単には別れられないよね。あいつが明美の部屋に住み着いている現状からすると」


 「……」
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