魅惑への助走
 「……上杉くん、もしも女の子だったら。立派な奥さんになりそう」


 着ているものを脱ぎ捨て、上杉くんの上に肌を寄せ、求めるように指を絡める。


 「明美もいい旦那さんになれそうだけど?」


 「料理は上杉くんのほうが上手いしね」」


 ……この週末、急な出費で家計が苦しいため、お出かけや外食は自粛して、部屋でおとなしくしてようって話になった。


 届いたばかりの新しいテレビを、週末はゆっくり堪能するつもりだった。


 ただ……若い二人が狭い室内に閉じ籠もっていれば、このような展開になるのは時間の問題で……。


 テレビを見ながらソファーでじゃれ合っているうちに、互いに気持ちが高まりキスから始まって。


 やがて服を脱ぎ捨て、ソファーの上では狭さを感じて寝室に移動して。


 ……一つになるまさにその瞬間、別の男の面影が脳裏をよぎる。


 こんなに夢中に求め合える彼氏がいるにもかかわらず、どうして私はあんなことを?


 二人楽しく過ぎている間は、信じられないくらい忘れていられる。


 私は……上杉くんを裏切っているということを。
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