魅惑への助走
 「明美、何か別のこと考えてない?」


 体の芯から夢中になりきれていない私に、上杉くんは違和感を覚えたようだ。


 「職場で気になる出会いとかあったとか?」


 単に私をからかうために、適当なことを口走っているだけのはずなのに。


 あまりに的を射たその一言に、私は内心動揺している。


 「そんなに疑うなら、試してみて」


 「明美、」


 「私に浮気の痕跡があるかどうか、ここまでしてても分からない? だったらもっと奥まで、」


 上杉くんは私の言う通りにした。


 抱かれていると、この人とは誰よりも体の相性がいいと実感できる。


 様々な男と経験して、していることは根本的には変わりはないのだけど、そのプロセスそして最終的にどれだけ感じられるか、相手によって全然違う。


 やはり私には、上杉くんが一番相性がいい。


 抱かれている間だけはあやまちの記憶は吹っ飛び、罪の意識からは自由になれる……。
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