魅惑への助走
 「ねえリョウ聞いて。私があなたを殺す理由は、もうどこにも存在しないの」


 「どういうことだ」


 彼女をいたぶるのをやめて、リョウは尋ねた。


 「私を支配するものは、もうどこにも存在しないの。これからは企みなしで、あなたに抱かれることができる」


 「え……?」


 リョウも半信半疑でテレビを見る。


 臨時ニュースが、独裁国家でクーデター勃発および、支配体制崩壊の報道をくり返している。


 「信じられない。まさか」


 リョウは携帯電話で、総理大臣に電話をかけた。


 「もしもし総理。臨時ニュースで流れていますが」


 総理大臣に確認し、ニュースは間違いないことが分かった。


 独裁体制の崩壊とともに、サツキが受けた任務も消滅した。


 「リョウ!」


 再びサツキは、リョウを強く抱きしめた。


 「ごめんなさい驚かせて。もう私を支配するものは、何もないの。これからは一人の女として、あなたに抱かれてもいい?」


 「俺を殺そうとした罪は、一生かかって償ってもらうしかないな」


 リョウは苦笑いを浮かべ、そっとサツキの髪を撫でた。
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