魅惑への助走
 ……この場面まで、一気に取り終えた。


 サツキとリョウ、すなわち椿ちゃんと武石タケシさんは完全に役に入り込んでいて。


 NGらしいNGも、ほとんどなかった。


 私も完璧に、物語に入り込んでいた。


 他人のセックスを目の前で見るのは、もちろん初めての体験。


 だけどそんなことをいやらしいとか、恥ずかしいなどと考える間もなく。


 ただ夢中で、物語を追っていた。


 二人のセックスも、物語の場面というか流れの中の一つ。


 最後までどうなるか分からない二人の運命を、手に汗を握りながら見守っていた。


 サツキを支配していた独裁国家が消滅し、これからは思うがままに生きられるようになり。


 リョウもそれを受け入れ、ハッピーエンドを確認した時。


 「明美ちゃん、もしかして泣いてる?」


 榊原先輩に言われるまで、気が付かなかった。


 完全に物語世界に入り込んでいた私は、ラストを確認した時、安堵のあまり涙を流していたのだった。
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