魅惑への助走
 「……?」


 いつの間にか眠りに落ちていた私は、美味しそうな匂いに目を覚ます。


 ベッドで眠る私を残し、上杉くんは起きて食事の準備をしてくれているようだ。


 電気屋さんに行ったついでに生鮮市場に立ち寄り、野菜や果物を安く大量に買いだめ。


 節約の一環として、しばらくは外食も控えめにしようということになり、食材を買い込んできたのだ。


 ただし二人暮らしなのに買い過ぎても傷んでしまうため、必要最小限に。


 早い段階でシチューやカレーを大量に作っておき、冷凍しておこうと上杉くんは提案していた。


 早速今はシチューを作っているらしい。


 「あ、明美。まだ寝ていていいのに」


 エプロン姿でキッチンに立つ上杉くんは、私に気が付き振り向いた。


 「上杉くんだけこき使っても悪いし。何か手伝えることあったら、手伝おうか?」


 「大丈夫。もうできたから。あとは盛り付けだけ」


 すでにご飯も炊き上がっていて、サラダの準備もできている。


 シチューを皿に盛り付けて、ご飯にサラダ……。


 まさに上げ膳に据え膳、至れり尽くせりだった。
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