魅惑への助走
 「おや?」


 玄関は真っ暗で足元がおぼつかないため、電気をつけた。


 すると足元に郵便物が散らばっている。


 投函口からあれこれ放り込まれたらしい。


 「あれ、上杉くん宛のだ」


 そういえば郵便局に転居届は提出したものの、住民票の移動をしていないのを思い出した。


 確か来年辺り選挙があるので、そろそろ住民票を何とかしておかなければ、と思いつつ日々が過ぎていく。


 あ、そういえば別れようとしているんだ私たち。


 住民票移動する前に、別れたらこの部屋は私は後にすることになる。


 それから上杉くんは、どこに行くことになるのだろう。


 きっと上杉くん一人では、この部屋の家賃は払っていけないはず……。


 こうやって帰宅するまでは別れる計画を頭の中で思い描いているのだけど、部屋に入り上杉くんに微笑まれてしまうと決心が鈍ってしまうのがその都度。


 今日もまた同じだろう……と考えながら、郵便物を拾い集めた。


 こんなに多数、郵便物があるなんて滅多にない。
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