魅惑への助走
 上杉くんがかつて住んでいたアパートの住所の上に、ここの住所が記されたラベルが貼られている。


 郵便局に届け出をすれば、確か一年間は転送期間になるので、こうやって新居に配達される。


 一年を過ぎてしまうと、転居先不明扱いとなり差出人の下へ戻ってしまうはず。


 「え……」


 ハガキ二通の差出人の名称を確認して、不吉な予感がした。


 二通はそれぞれ、○○カード株式会社。


 東北地方の住所に、「親展」そして「債権回収機構」の文字。


 これって、クレジットカードの決済が、銀行口座の残高不足などで不可能だった際に送られてくる通知では?


 実は私もかつて、バイト生活をしていた頃、このような通知書類の常連だったから。


 前歴があるから、この手の郵便物には見覚えがある。


 さらにもう一通に封書。


 こちらも「親展」で、差出人は国民年金機構だとかそういうもの。


 これってもしかして……国民年金をちゃんと支払ってないのでは?


 考えただけで恐ろしくなって、手紙類を握り締め居間に突入した。
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