魅惑への助走
 「上杉くん!」


 つい大きな声を出してしまい、乱入するかのごとくすごい勢いでドアを開けたため、上杉くんは驚いてこっちを見た。


 「明美、お帰り。……どうしたの?」


 勉強しているかと思いきや……ソファーに横たわって携帯の画面を見ていた。


 慌てて一時停止ボタンを押す。


 携帯でゲームをやっていたようだ。


 テーブルの上には、いつまでも新品状態なテキストの山……。


 「もう……いい加減にしてよ!」


 今まで心の奥底でくすぶり続けていた不満が、ついに表面化してしまった。


 左手に手紙の束を握り締めたまま、右手で上杉くんの携帯電話を奪い取っていた。


 「明美、何を怒ってるの」


 「そんなのん気なこと言ってる場合なの? ……何なのこれ!」


 手紙の束を、テーブルに叩きつけた。


 「こっちが必死で働いて、節約にも励んでるのに。そっちは無収入なのに浪費三昧? 優雅な生活ね!」


 「あ……」


 親展という表示と、差出人であるカード会社の名を目にして、上杉くんはようやく状況を把握したようだ。
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