魅惑への助走
 「働かざる者食うべからず、って言うでしょ? 働かないのによく平気で無駄遣いできるね。私の財布をあてにしてるヒモって言われても、言い訳できないんじゃない?」


 後から思えば、私はひどいことを上杉くんに言い放っていた。


 現状に甘えている面があるとはいえ、好んで働いていないわけではない人に向かって残酷なことを……。


 「ごめん、明美。まさか残高が底を尽いているとは想定外だったんだ」


 おそらくプライドは傷付けられたと思うけど、上杉くんはそれを表に出さず、ただ私に謝ってきた。


 「バイトの蓄えで、来年までは持ちこたえると予想してたんだけど、見通しが甘かったらしい。国民年金の支払いもあったし……」


 「……」


 ここでようやく、カード会社からの通知を開いてみた。


 金額は数千円。


 上杉くんの説明によると、カード決済しているものは携帯電話の支払いだけらしい。


 カードを使っての私的な買い物は、一切していないと。
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