魅惑への助走
 この日は土曜出勤だった。


 年末が近いので、年末年始休暇に支障が出ないよう今のうち雑務を消化しておかなければならない。


 ちょうど今日は上杉くんも模擬試験で留守だし、家にいても一人なので出勤でちょうどよかった。


 帰宅も私のほうが先のはずで、今日は久しぶりに真っ暗な部屋に帰宅する……。


 はずなのに、帰宅したら窓から明かりが漏れているのが見えた。


 玄関の鍵を開けるとテレビの音がする。


 上杉くんのほうが早かったのかな?


 その程度にしか思わず、居間へと足を進めた。


 「え……」


 「あ、明美。お帰り。早かったね」


 テーブルの上にはゴージャスな料理が用意されていた。


 ついさっき帰宅したばかりとは到底思えない……。


 「あともうちょっとで完成だよ。待っててくれてもいいし、先にお風呂でも」


 「……今日、遅くまで模擬試験だったんじゃないの? どうして早い時間から料理してられたの?」


 「あ、模擬試験のこと知ってたっけ? ……受験に行かなかった」


 「えっ」


 「来年の司法試験受験、あきらめようと思うんだ」
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