魅惑への助走
 「それは重々承知だけど、今さら新卒の自分には戻ることはできないし、仕方ないよ。中途採用でもいいから、何とか頑張ってみる」


 悟り切ったような言葉の割には、その口調にあまり深刻さを感じられず。


 さらにイラッとしてしまった。


 「……じゃ卒業後の二年近くは、いったい何だったの?」


 「え?」


 「そんな簡単に断念できるくらい、軽い気持ちだったわけ? ていうか、もう限界って思えるくらい、真剣に勉強したの? 最近の上杉くんを見てたら、全然真剣さが感じられなかった!」


 「明美、」


 「だめだったら私がいるから大丈夫っていう甘えが、どっかにあるんじゃないの? その程度の決意じゃ、就職先見つかってもどうせ長続きしないんだから!」


 どんどん刺々しくなる言葉。


 「明美も以前、生活のために小説より今の職場を選んだんだろ? どうして俺の気持ちを分かってくれないの?」


 「小説はこれからだってまだチャンスはあるけれど、司法試験は年齢制限もあるし、後から悔やんでも手遅れでしょ? 一時の気の迷いで逃げ出したら、一生後悔するんじゃないかな」
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