魅惑への助走
 「俺だって、これ以上明美に迷惑をかけたくないと思って」


 「私を理由にしないで!」


 肩に触れるその手を払いのけていた。


 「あ……」


 「ご、ごめん」


 さすがに謝る。


 「……俺が大学に在学中、奨学金をもらっていた話したよね」


 「うん」


 上杉くんは早くにお母さんを亡くしていて、その後再婚して新たな家庭を設けているお父さんとは疎遠だと聞いたことがある。


 再婚相手との間には子供も生まれているので、経済的に負担をかけたくないので大学は奨学金で通うと。


 心掛け自体はよかったのだけど、奨学金は卒業後に返済しなければならない。


 司法試験に落ち続けていたため、返済を猶予してもらっていたのだけど。


 確か卒業後三年目から、返済がスタートするとか何とか。


 それもあって上杉くんは、就職を焦り始めているのかもしれないのだけど。


 ただ私には……返済云々以前に、困難な壁に背を向けて逃げ出しているようにしか見えなかった。
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