魅惑への助走
 「何のために今まで頑張ってきたの? 上杉くんの夢の実現のために、私もずっと後押しをしてきたのに。弁護士として活躍する上杉くんの姿を信じて、私はそれしか夢にも見てなくて……」


 「まさか……明美、俺が弁護士になればそれでいいの? 弁護士になれそうだからって理由で俺を選んだの?」


 「何ですって……?」


 お互いに少しずつ、相手に誤解を与えるような発言をした。


 本音は決してそんなのではなかったのに。


 誤解により私は、将来の弁護士の地位目当てで上杉くんに近付いたことになってしまい。


 私も誤解して、上杉くんが私をそんな目で見ているんだと思い込んでしまった。


 「馬鹿にしないでよ!」


 つい側にあった椅子を叩いてしまった。


 椅子はテーブルに勢いよくぶつかり、その衝撃でテーブルの上に置かれていた料理が床に落ちた。


 「……」


 部屋は気まずい沈黙で覆われる。


 「……出かけてくる」


 気まずさに耐えかねて、バッグだけ手にして私は部屋を後にした。


 ここは自分の部屋なのに。


 いつもなら呼び止めてくれるだろう上杉くんも、この日は無言のまま出て行く私を見送っていたようだ。
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