魅惑への助走
 「……」


 夜の街を少しずつ移動し、喫煙できるスペースを見つけては煙草を取り出す。


 昨今、昔みたいにどこでも自由に煙草を吸うわけにはいかず、規制も厳しくなってきたので、灰皿のある場所を見つけては駆け寄る。


 高校生の頃、初めての相手が煙草を吸っていて、その煙があまり快適には感じられなかった。


 その後進められるがままに、初めての一本を口にして。


 最初は苦くて嫌だったけど、くり返しているうちになぜか精神的に落ち着くようになっていた。


 メンソールの刺激が、気管をじんわりと刺激する。


 しかし徐々に、煙草は社会的に嫌悪されるようになっていった。


 私自身も健康のため、節約のため。


 ……そして上杉くんが嫌がるから、付き合い始めた頃から煙草はやめていた。


 それでも精神的に落ち着かないことがあると、どうしても吸いたくなってしまう。


 今までは衝動を抑えることができていたのに、今日は久しぶりに……。


 次は街路樹の脇で煙をふかす。


 12月の寒空の下、冷たい風が時折吹きすさぶものの、煙草で寒さを紛らわしている。


 「お嬢さん、ここは禁煙エリアですよ」


 背後から声がした。
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