魅惑への助走
 「……やっぱり葛城さんが言ってた通りみたいです。私、もう限界かも」


 「何が限界なの?」


 急に胸を触られる。


 「違う。そういう意味じゃなくて……」


 部屋を飛び出す前までの、一連の出来事を伝えた。


 私が頑張れば頑張るほど、上杉くんはやる気をなくしていくと。


 いずれ迫り来る借金返済の日々を考えただけでぞっとして、厳しい言葉を吐き捨て、部屋を飛び出してしまったと。


 「それは逃げたくなって当然じゃない? あいつの借金に対し明美が責任を負う必要は、全くないんだし」


 「支払いの中には、車を買ったり家財道具が必要になったりと、私が原因の物も存在します。生活していく上では仕方のないこともあるといえばあるのですが、でも……」


 上杉くんの分までは、私の力では到底請け負うことは不可能。


 国民年金の支払いや、奨学金の返済。


 衣食住以外の出費があまりに多すぎて。


 「奨学金返済期限が迫ってるとは盲点だったな。だったらなおさら、あいつに働かせるべきでは? いつまでも弁護士だ司法試験だって、夢物語を追いかけている場合じゃない」
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