魅惑への助走
 「……メリークリスマス」


 赤ワインが注がれたグラスを重ねた。


 さっき二人で買い物に出かけた際、一緒に購入してきた。


 今日ばかりは奮発して、高級な赤ワインを一本。


 それからチキンやケーキなど、食材をあれこれ。


 ……予約を入れてなかったため、当日の飛び入り購入はNGな店が多く、無事購入するまで案外苦労する羽目に。


 それでもオードブルも無事購入し、帰宅してパーティーの準備。


 この日もまた上杉くんが料理担当で、私は部屋の飾り付けだけ。


 帰りがけに買ってきたキャンドルに火をつけて。


 部屋になかったクリスマスツリーも、ホームセンターに立ち寄ったらすでに半額で投げ売りされていたので、それを購入。


 「いいの? こんな大きな木買っても。これから……」


 「……」


 私は何も言えなかった。


 もうすぐ引っ越し作業が始まることは、互いに察している。


 その際こんな大きなツリーがあっては、荷物になること間違いなし。


 でも……。


 「せっかくのクリスマスなんだし、ツリーがないと寂しいでしょ」


 私が押し切って、ツリーを買うことにした。
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