魅惑への助走
 「あんなものを目にしてもなお、明美を愛してやまなかった。でも自分の裸をさらけ出し続けることが、明美にプレッシャーとなっていたことは、容易に想像できる」


 あんなもの?


 裸?


 プレッシャー?


 「あんなものを見つけたことを理由に、俺のほうからこの部屋を出て行こうとも考えた。でもできなかった。それでもなお俺は、明美が好きで離れなかったんだ……」


 ?


 「明美のほうから別れを切り出させて、悪者にさせてしまってごめん。今のままでは互いに不幸になる、それは十分に身に染みた。もうすぐ俺はここを出て行くから、明美はもうあんなものに出演しないでくれ」


 「上杉くん、『あんなもの』ってなに?」


 「あの日、見つけてしまったんだ。言い争いの末、明美が部屋を出て行った時。バッグから落ちたDVDのパッケージに明美が写っていて、主演女優の名前もタケダアケミで。恐る恐る再生してみたら、最初はドラマかと思ったけど、やがて濡れ場が始まって……」


 あれだ。


 竹田朱実ちゃん主演のアダルトDVD。


 そうか、この部屋を飛び出す際、カバンの中に入っていたのが飛び出したんだ。


 それを目にした上杉くんは再生してみて、それを私だと誤解している?
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