魅惑への助走
 「もうやめてくれって言いたかった。でも勇気がなくて言えなかった。明美があんなおぞましい世界に足を踏み入れたのも、きっと金銭苦が原因なんだろうし。どれもこれも、俺が甲斐性がないから……」


 「だから誤解だって」


 「そういえば今まで、明美がどんな仕事をしているのか、全く気にもしていなかった。それは明美のことを、一方的に信用していたから」


 私の言い分も聞かず、上杉くんは一方的に話を続けている。


 「SWEET LOVEって会社名を耳にしても、何をしている会社なんだか知らなかったし、気にも留めていなかった。……まさかアダルトビデオのメーカーだったとは。そして明美が、AV女優だっただなんて」


 「違うってば」


 「ネットで調べた限りでは、竹田朱実がSWEET LOVEからデビューしたのはこの秋だね。そこの作品のみならず、同時進行で他のメーカーからもDVDをリリースしている。しかもさらにおぞましい作品を」


 そう、竹田朱実ちゃんはSWEET LOVE所属ではない。


 単体のワンランク下ともいえる「企画単体」レベルなので、他メーカーの作品にも出演可能。


 女性向けでソフト路線なSWEET LOVE作品とは異なる、男性向けのもっと生々しい作品でも主役の座を得ているようだ。
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