魅惑への助走
 「どうして俺、見ちゃったんだろうね。あの時明美が落としていったDVDを。何となく気になって、再生したのが運の尽きだった」


 「お願い、聞いてよ。あのAV女優は、」


 「……明美の正体を知ってから、俺は明美に触れられなくなった。抱けなくなった」


 その一言を聞いた瞬間。


 疑惑を否定することで必死だった私に、明らかに変化が生じた。


 「それって……、気持ち悪くなったから?」


 「え?」


 「私がAV女優だから? 気持ち悪くて抱く気になれないってこと?」


 「……」


 上杉くんは何も答えなかった。


 それが私の気持ちに火をつけた。


 「動画、再生しておいてなんなの! 結局は濡れ場を期待して見てたんじゃないの!?」


 いきなり大声で怒鳴ってしまった。


 「途中で見るのを止めたよ! 最初は恋愛ドラマかと思ったけど、途中から……。おぞましくて到底、見れるもんじゃなかったよ」


 思えばさっきから、上杉くんは「おぞましい」を連発する。


 私が必死で構成を練った作品に対し……。
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