魅惑への助走
 「葛城さんのご家族、絶対に許さないと思うけど。だって私は……」


 葛城さんの実家は、地元ではかなりの名家らしい。


 そんな家なら大事な息子の結婚とならば、絶対に相手の素性をあれこれ調べてくると予想される。


 もしかしたら興信所などを使ってくるかもしれない。


 私の実家には別に問題はないと思うけど、決して名家とは言えないし、それに私が現在アダルトビデオの製作に携わっていると知られたら、猛反対されるのは明白だ。


 「あ、大丈夫。俺とっくに勘当されてるから」


 ……聞くところによると。


 野球に熱中するのは黙認されていたが、野球では挫折したため、大学卒業後は地元に帰って親のコネで地元に就職先も用意されていた。


 にもかかわらず起業すると言い放ち、地元に戻らず東京に残り、コネの話は蹴った。


 コネ入社予定先の会社に対し恥をかかせたと両親は怒り、それがきっかけで勘当されたと。


 「いいんだ気にしなくても。出来のいい兄が二人上にいて、俺は昔から期待されてなかったから」


 親に対して不義理を働き続けるのはあまり好ましいことではないものの、私も実家とは疎遠になっているし、強くは反論できない。
< 512 / 679 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop