魅惑への助走
「……明美、今の仕事辞めてもらえないか」
葛城さんが突然そんなことを告げてきたのは、確かお正月休み最後の日だったと思う。
その前の夜、業界関係者が集まる飲み会があって、葛城さんは未明まで出かけていた。
待ちきれず私は先に寝てしまい、葛城さんがいつ帰ってきたのかも分からない。
次の日遅い朝食兼昼食を二人で取っていた際、いきなり葛城さんは私に仕事を辞めてほしいと伝えた。
「えっ、いきなりどうしてそんな」
「もう生活のために、明美があくせく働く必要もないし」
結婚することになれば、収入面では私が働かなくても別に問題ないのは、計算せずとも十二分に承知していた。
とはいえ日に日に仕事が楽しくなってきて、重要なポジションも任せられるようになってきた今のタイミングでSWEET LOVEを後にするのも……。
「今すぐ辞めたら松平さんにも迷惑がかかるから、今年度末くらいのタイミングで。俺も向こうに五月くらいに行けば大丈夫だから」
「向こうとは? 行くってどういうことですか」
「……実はイギリスのほうでやりたいことがあるんだ。しばらくの間そっちに住むことになるから、明美も一緒に来てほしい」
葛城さんが突然そんなことを告げてきたのは、確かお正月休み最後の日だったと思う。
その前の夜、業界関係者が集まる飲み会があって、葛城さんは未明まで出かけていた。
待ちきれず私は先に寝てしまい、葛城さんがいつ帰ってきたのかも分からない。
次の日遅い朝食兼昼食を二人で取っていた際、いきなり葛城さんは私に仕事を辞めてほしいと伝えた。
「えっ、いきなりどうしてそんな」
「もう生活のために、明美があくせく働く必要もないし」
結婚することになれば、収入面では私が働かなくても別に問題ないのは、計算せずとも十二分に承知していた。
とはいえ日に日に仕事が楽しくなってきて、重要なポジションも任せられるようになってきた今のタイミングでSWEET LOVEを後にするのも……。
「今すぐ辞めたら松平さんにも迷惑がかかるから、今年度末くらいのタイミングで。俺も向こうに五月くらいに行けば大丈夫だから」
「向こうとは? 行くってどういうことですか」
「……実はイギリスのほうでやりたいことがあるんだ。しばらくの間そっちに住むことになるから、明美も一緒に来てほしい」