魅惑への助走
 「今の仕事は、インターネットに接続できる環境でありさえすれば、どこだって継続可能だ。本社機能は東京に残し、そこは別の者に任せて、俺はロンドンから指示を送る」


 「そこまでして……?」


 「ようやく自分のやりたいことができる目前まで来たんだ。せっかくだからチャレンジしたい」


 葛城さんのそばにはいたいし、できる限り支えとなってあげたい。


 しかしその代償として、私は今のやりがいのある仕事を手放さなくてはならない……?


 「明美に犠牲だけを強いるつもりはないよ」


 私の心の声が聞こえたのか、葛城さんは私の肩を抱き寄せ囁いた。


 「これを機に、本来の明美の夢を追求してみない?」


 「本来の私の夢?」


 「好きな小説、書いてみなよ」


 「えっ、小説。でも今さらそんな」


 なかなか受賞、デビューが果たせない現実に嫌気が差して、いつしか遠ざかっていた小説執筆。


 SWEET LOVEで自作を脚本として発表し、AVの映像という自分の「作品」が成立することで満足はできていたのだけど……。


 「もう一度、小説家目指してみてもいいんじゃないか。今のままAVの台本書いていても、ほんの一握りの人は喜んでくれたとしても、その枠からの脱却はなかなか難しい」
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