魅惑への助走
 「違うんです。……その彼氏とは、もう別れました」


 「えっ、そうだったの!? いつ?」


 「……去年です」


 去年は去年だけど、クリスマスだとはさすがに言えなかった。


 十日ほど前に前の彼氏と別れ、今もうすでに次の彼氏と結婚を報告だなんて、あまりに展開が速すぎるから。


 正直に話すと当然、二股の時期があったことに勘付かれるだろう。


 「そんなことになってたんだ……。でもその後、新しい彼氏に巡り会えてたんだね。それにしてもスピード結婚だね。新しい彼氏ってどんな人?」


 「……会社社長をしています」


 「えっ!?」


 下手に隠しても後から騒ぎになりそうなので、これから先のことはありのままを伝えることにした。


 「社長って、まさか……」


 榊原さんは察したらしい。


 「葛城さんです」


 「えーっ!」
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