魅惑への助走
 ……。


 「そうかそうか。出会いはこのビルのボウリング大会か」


 榊原先輩が上杉くんと出会い、私のことをあれこれ語り合うことなど絶対に有り得ないと油断して。


 「なるほどね。彼氏は勉強にもあまり身が入らなくなり、明美ちゃんに依存するようになったんだね。そんな矢先に葛城さんと知り合い、相談に乗ってくれたわけか」


 葛城さんとの馴れ初めに関しては、ある程度本当のことを榊原先輩には伝えた。


 「男って弱いからね。目の前の安楽な日々に流される生き物だから。それを考えると別れて正解だったんじゃないかな。ようやく目が覚めて、本来やるべきだった試験勉強に真面目に向き合えるようになったと思うし」


 「だといいのですが」


 「そして明美ちゃんも、よかったじゃない。悩み相談に乗るうちに、葛城さんと次第に親しくなって……ってパターンだね」


 二股状態にあったとは予想だにしていない榊原先輩は、私たちの今に至る過程が幸せに満ち足りたものだと思い込んでいる。


 「それにしてもあまりのスピード婚には驚いたよ。だけど寂しくなるね。葛城さんにくっついて明美ちゃんもイギリスに行っちゃうんだもんね」
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