魅惑への助走
 「すみません。榊原先輩にはせっかく色々教えてもらったのに……」


 こんな急展開になりさえしなければ、一生の仕事だと信じていたくらいだった。


 なのに男の影響で、こうもたやすく仕事を放り投げるような真似を……。


 「残念だけど、仕方ないね。これも明美ちゃんの人生だから」


 榊原先輩は、理解ある口調で私に答えるものの。


 本音は残念でたまらないらしい。


 自らの後継者として私をスカウトし、SWEET LOVEへの道標を作ってくれた。


 なのに自分よりも早く、私が辞めていくことになろうとは。


 突然の事態に戸惑いつつも、喪失感に徐々に襲われているようだ。


 私も榊原先輩には、この仕事に関してあれこれ教えてもらった。


 せっかく学んだことを、簡単に手放す結果となってしまう。


 仕事よりも男を選んで。


 榊原先輩には申し訳ないと感じつつも、この時の私は葛城さんとの新しい生活のことで頭が一杯だった。
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