魅惑への助走
 「……なかなかどこにも連れて行ってあげられなくて、悪いね」


 一週間ぶりに葛城さんと一緒の夕食。


 こっちに来てから、二人の夕食は自宅では作らずいつも外食。


 「セレブはそういうものだから」と、葛城さんは意に介さない。


 私も料理はあまり自信がないので、栄養のバランスさえ取れていれば外食のほうが楽といえば楽なのだけど……。


 「最初から分かってましたから。葛城さんは自分の成すべきことを頑張ってください」


 「明美には小説というもう一つの相棒があるから、安心して出かけていられるけど。小説ばっかりじゃ頭が煮詰まるから、もっと他に習い事とか」


 「英会話スクールがあるので、今のところは大丈夫ですよ」


 私の英語は日常生活レベルがやっと、それもカタコトなので。


 昼間は外国人居住者や移民、留学生のために開校されている英会話スクールに通い始めた。


 私以外にも夫の仕事の都合で渡英した女の人が他にも何人か通っていたので、仲良くなって学校以外でも交流するようになった。


 そして小説書きもあるし、葛城さんが思う以上に私は充実した毎日を送っている。
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