魅惑への助走
 「明美、携帯が鳴ってるよ」


 「ごめんなさい。マナーモードにするの忘れてた」


 テーブルの脇にカゴが置いてあり、その中に入れておいたバッグの底の携帯が音を立てていた。


 こちらに来てから、現地の携帯会社のものに変更。


 出発の前に日本で使っていた携帯は解約してしまったので、もはや日本との繋がりは事実上絶たれている……。


 つまりこの携帯を鳴らすのは、葛城さん以外はこっちに来てから知り合いになった人くらい。


 「英会話のお仲間?」


 「いえ、梨本(なしもと)さんでした」


 「ああ、そっちか」


 そういえばパソコンに届いたメールを、携帯に転送するように設定していたのだった。


 梨本さんは日本の携帯小説サイト「magic theater(マジックシアター)」の編集部に勤務している。


 葛城さんと顔見知りで、私がmagic theaterに掲載している携帯小説処女作をいずれ書籍化させるために、あれこれ水面下で動いてくれている……。
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