魅惑への助走
 端的に言えば、これは不正行為。


 表沙汰になったら私はこの世界から追放されるどころか、梨本さんたちも責任を問われ辞任を余儀なくされるかもしれない。


 それゆえ絶対に隠し通さなければいけないプロジェクト。


 そのような危険と背中合わせであるものの、デビューが約束されている私は、コンテストの締め切りに合わせて更新作業を行なう。


 更新するたびに、パソコンのアドレス宛に梨本さんからアドバイスが送信される。


 ただ時差があるため、メールが届くのはだいたいこちらは夜間。


 「今頃東京は、ランチタイムを終えた頃だね」


 大きなガラスの向こうに広がる街並みを見つめながら、葛城さんがつぶやく。


 まだ西の空がほんのり明るい。


 北緯50度以北と、北海道よりも北に位置するロンドンの街は、夏至が近付く五月下旬は日没が非常に遅い。


 このまま白夜になるんじゃないかって思えるほど。


 「まずは携帯小説ではあるけれど、明美の夢を叶えるお手伝いができて、本当に嬉しいよ」


 私をロンドンに伴うため、葛城さんは私に仕事を辞めるように強いた。


 私から生きがいを奪った代償に、葛城さんは私に小説家デビューを約束してくれた。 
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