魅惑への助走
 「梨本さん」


 「こっちも商売だからね。新参の携帯小説サイトだから、既存のサイトに負けないよう、売れ筋路線をバンバン出していかなきゃならないの」


 「でも……。流行っていずれ変わりますよね」


 「そう。その際は早急にトレンドを読んで、次の売れ筋路線に転向するけどね。でも女がオフィスラブを好む傾向は、不変のものだと思うんだけどね。一種のシンデレラストーリーとして」


 「シンデレラ、ですか」


 「明美ちゃんも子どもの頃、夢見てなかった? いつの日にか白馬に乗った王子様が、目印のガラスの靴を持って、お城から迎えに来てくれるって」


 遠い遠い昔。


 ほとんど記憶もないくらいに幼い頃。


 子供向け世界文学全集か、海外の有名会社のアニメ映画を見たとかその類のきっかけで。


 きらびやかな世界に憧れた日もあった。


 しかし……大人になるにつれて、そんな夢をいつまでも抱き続けるなんてバカみたい、と。


 自分に自分で蓋をしてしまっていた。


 「欧米の女性にも、シンデレラ願望って結構強いのよね。ハーレクイン文庫ってあるでしょ? そこではシークものが根強い人気だし」


 「シークって、アラブの大金持ちの王子様ですよね」


 「そう。砂漠のシークに見初められて、玉の輿に乗るっていうシンデレラストーリー。千夜一夜物語って感じかも」
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